東京地方裁判所 昭和56年(レ)49号 判決 1982年4月16日
控訴人 山中光也
右訴訟代理人弁護士 山城昌巳
被控訴人 東京総合信用株式会社
右代表者代表取締役 西村幸雄
右訴訟代理人弁護士 高津季雄
同 安藤武久
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(控訴の趣旨)
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(控訴の趣旨に対する答弁)
主文同旨
第二当事者の主張
(請求原因)
一 立替払契約
被控訴人と控訴人は、昭和五四年三月二日、控訴人が同日株式会社あつざわ(以下「あつざわ」という。)から買い受けた呉服(以下「本件呉服」という。)の代金五〇万円について、被控訴人が控訴人に代りあつざわに立替払をし、控訴人は被控訴人に対し、右立替金に立替手数料二万八七五〇円を付加して次のとおり分割して支払う旨約した(以下「本件立替払契約」という。)。
同月二六日限り 五万三五五〇円
同年四月ないし同年一二月の毎月二六日限り 五万二八〇〇円
遅延損害金 年一八・二五パーセント
二 立替払
被控訴人は、あつざわに対し、同年三月三〇日、本件立替払契約に基づき本件呉服の代金五〇万円の立替払をした。
よって、被控訴人は、控訴人に対し、本件立替払契約に基づき、立替金残金二〇万六〇二四円及び手数料残金五一七六円の合計二一万一二〇〇円並びに右立替金残金二〇万六〇二四円に対する割賦弁済の最終弁済期の翌日である同年一二月二七日から支払ずみまで約定の年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求原因に対する認否)
一 請求原因第一項の事実中、控訴人とあつざわが昭和五四年三月二日、本件呉服につき被控訴人主張の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結したこと並びに被控訴人と控訴人が被控訴人主張の割賦弁済の方法及び遅延損害金の利率を約したことは認めるが、その余は否認する。
二 同第二項の事実は知らない。
(抗弁)
一 請求権の不発生
控訴人は未だにあつざわから本件呉服の引渡を受けていない。しかして、本件立替払契約は、控訴人が被控訴人に本件呉服の代金をあつざわに立替払することを委託した準委任契約であるところ、このような商品代金の立替払の委託においては受任者は商品の引渡を調査、確認した後に立替払をするべき注意義務があるにもかかわらず、被控訴人は右注意義務を懈怠し、本件呉服の控訴人への引渡を調査、確認しないで立替払をした。したがって、民法六五〇条三項の趣旨に鑑み、被控訴人は控訴人に対して本件立替払契約に基づく立替金及び手数料を請求することはできないものというべきである。
二 請求権の消滅
本件立替払契約において、控訴人は、被控訴人に対し、あつざわの控訴人に対する本件呉服の代金の代位弁済を委託したものであるところ、控訴人はあつざわに対して本件呉服の引渡を催告したうえ、昭和五四年四月二〇日ころ、本件売買契約を解除する旨の意思表示をしたので、被控訴人の控訴人に対する本件立替払契約に基づく前記請求権は消滅した。
三 同時履行
本件立替払契約は、その成立において本件売買契約を不可欠の要素とするものであるうえ、商品購入者においては一般にローン会社は販売店と一体の商品購入についての一当事者と意識されるものであり、かつローン会社と販売店とは提携関係に立ち経済的に同一体であるとも見られるので、商品購入者たる控訴人は販売店たるあつざわから本件呉服の引渡を受けるまでローン会社たる被控訴人からの本件立替払契約に基づく前記請求を拒絶することができるものというべきである。したがって、控訴人は、あつざわから本件呉服の引渡を受けるまで立替金及び手数料の支払を拒絶する。
(抗弁に対する認否)
一 抗弁第一項のうち、控訴人が未だに本件呉服の引渡を受けていないことは知らない。被控訴人が控訴人への本件呉服の引渡を調査、確認したうえで立替払をする義務があるとの主張は争う。
二 同第二項のうち、控訴人があつざわに対して本件呉服の引渡を催告したこと及び本件売買契約を解除したことは知らない。その余は争う。
三 同第三項の主張は争う。
(被控訴人の主張)
被控訴人と控訴人は、本件立替払契約において、本件呉服の瑕疵、故障等は控訴人とあつざわとの間で処理し、このために割賦金の支払を怠ることはない旨約したので(以下「本件特約」という。)、控訴人の本件売買契約上の抗弁は被控訴人に対抗できないものというべきである。
(被控訴人の主張に対する認否及び反論)
被控訴人主張の本件特約は、抗弁第三項で述べたところ及び商品購入者たる控訴人の販売店に対する請求権を担保する唯一の武器を奪うもので、無効なものというべきである。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因について
1 請求原因第一項(立替払契約)について
請求原因第一項の事実中、昭和五四年三月二日、控訴人があつざわから本件呉服を代金五〇万円で買い受ける旨の契約を締結したこと並びに控訴人が被控訴人に対して同月二六日限り五万三五五〇円を、同年四月ないし同年一二月の毎月二六日限りそれぞれ五万二八〇〇円を支払うこと及びその遅延損害金を年一八・二五パーセントとすることを約したことはいずれも当事者間に争いがない。また、《証拠省略》を総合すると、控訴人が被控訴人に対して本件呉服の代金五〇万円を控訴人に代ってあつざわに立替払してくれるよう委託し、右立替金に手数料二万八七五〇円を加えた金額を控訴人が被控訴人に支払う旨の契約が同年三月三日ころに成立したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
2 同第二項(立替払)について
《証拠省略》を総合すると、右第二項の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。
二 抗弁について
1 抗弁第一項(請求権の不発生)について
《証拠省略》によると、控訴人はあつざわから未だ本件呉服の引渡を受けていないことが認められるが、本件立替払契約の趣旨から被控訴人が本件立替払をするにあたって控訴人の主張するような引渡の有無の調査、確認義務を当然に負っていたと解すべき法的根拠は見出し難い。他にその旨の特約等の存在したことの主張立証のない本件においては、控訴人の抗弁第一項の主張は失当といわざるを得ない。
2 抗弁第二項(請求権の消滅)について
《証拠省略》によると、本件において被控訴人が請求している権利は、被控訴人と控訴人との間の本件立替払契約に基づき被控訴人が控訴人に対して取得した契約上の求償権であることが明らかであって、弁済による代位としてあつざわの控訴人に対する本件売買代金請求権を代位行使しているものではない。したがって、本件売買契約が解除されたとしても、そのことによって被控訴人の右求償権には何等の消長をきたすものではなく、右求償権に基づく請求を弁済による代位の場合に準じて取り扱うべき根拠もない。抗弁第二項は理由がない。
3 抗弁第三項(同時履行)について
本件立替払契約は本件売買契約とは別個のものであって、控訴人主張の事情があるからといって、右両契約の履行が互いに牽連関係に立ち、本件売買契約上のあつざわの本件呉服の引渡義務が履行されるまで控訴人が本件立替払契約による前記立替金及び手数料の支払を当然に拒絶できるものと解することはできない。のみならず、本件立替払契約において本件特約がなされていることは控訴人において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなすべきところ、右特約によれば控訴人が本件呉服の不引渡を理由として右支払拒絶をなし得ないものとされていることは明らかである。そして、右特約は、商品購入者に不利益をもたらす場合がないではないが、他方、本件立替払契約のようないわゆるショッピング・ローン契約においては、商品購入者は現金の一時払という負担を免れつつ相当高額の商品を容易に入手して利用できるという利益を得るために前記のような危険を伴う特約付きで代金の立替払をしてもらうものであることを考えると、右特約をもって直ちに無効とすることはできないものというべきである。以上の点に関する控訴人の主張は失当たるを免れない。
三 結論
以上のとおりであるから、被控訴人の請求を理由があるものとして認容した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 河野信夫 高橋徹)